【密着!内藤哲也】
取材を始めたのは夏の終わりのことでした。内藤さんは自ら運転する車で後楽園ホールへ。試合後は深夜にひとりジムでトレーニング。そして、その日の試合を見返し、反省。 #制御不能のカリスマ の知られざる闘い。19(月)22:25~#NHK #プロフェッショナル#内藤哲也 #プロレス pic.twitter.com/Mq236kFaVZ
— プロフェッショナル仕事の流儀 (@nhk_proff) 2018年11月16日
NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』に、新日本プロレスの内藤哲也選手が出演します。
リンク プロフェッショナル 仕事の流儀▽少年の夢、リングの上へ~プロレスラー内藤哲也
番組は、内藤選手の少年時代から抱いていた「3つの夢」を中心に構成される予定。
内藤選手の3つの夢とは、
- 新日本プロレス入団
- IWGPヘビー級ベルト
- 1・4東京ドーム大会のメインイベント
です。
内藤哲也選手は、その3つの夢をすべて叶え、新日本プロレスの人気レスラーとなりました。
リンク 内藤哲也【新日本プロレス】制御不能なカリスマのプロフィールを紹介
内藤哲也の人気がなかった理由
しかし、少し前まで、内藤選手はあまり人気のある選手ではありませんでした。いえ、正確にいうと人気はありました。しかし、それ以上にアンチのファンが多かったのです。
なぜでしょうか?
最後のピース
本題の前に、ちょっとした話を2つ紹介します。
人類史上最大の発見
1980年中ごろ。
エジプトの考古学者・ハワード・カーター氏は、資本家カーナヴォン卿の出資を受けて、古代ツタンカーメンの墓を探す冒険に出ました。
長い冒険の末、ついにツタンカーメンの墓を探し当てることに成功。最後の扉を開ける直前、突然、カーター氏は、カーナヴォン卿に電報を打ちました。
「すぐ来るように」と。
カーナヴォン卿が来るまでの間、カーター氏は最後の扉を開けず到着を待ちました。
そして、ようやく到着したカーナヴォン卿に、カーター氏は、ツタンカーメンの墓の最後の扉を開けるよう言いました。つまり、カーター氏は、一番の醍醐味、最後の扉を開けるという「最後のピース」を、譲ったのです。
これは、冒険の費用をずっと負担してきたカーナブォン卿に「この世紀の発見は、あなたと一緒に成し遂げたのですよ」と共有感を持たせるためのもの。
もちろん、カーナヴォン卿が喜んだのは言うまでもありません。
料理の最大の価値
世の中には、人気の料理店がいくつもあります。それら料理店には、ある一つの共通点があります。
料理を最後まで完成させずに、お客様に提供するという点です。
料理人は、料理を完成直前まで作り、最後のひと手間をお客さんに委ねます。もちろん、料理人自身が完成させたほうが確かであるにも関わらずです。
お客様は完成前の料理に、ひと手間という「最後のピース」を埋め込み、あたかも料理人と一緒に完成させたかのような共有感を得るのです。
実際に味が大きく変わることはありません。しかし、お客さんには格段に美味しく感じることでし。
独りよがりのプロレス
内藤選手は、新人のころから期待されたレスラーでした。ポテンシャルが高くルックスだって悪くない。難易度の高い技も軽々こなし、次世代のエースと呼ばれ、注目を集めていました。
しかし、期待されたほどの活躍はできず、徐々に観客の注目を失います。期待が大きかった分、その反動も大きく、強烈なブーイングを浴びせられるようになりました。
これは、当時の内藤選手には、プロレスラーにとって大切な、観客に共有感を持たせるという能力が圧倒的に不足していたからです。
先ほどの例で言うと、「最後のピース」を観客に渡すことなく自分の手だけで試合を完成させようとする、独りよがりなプロレスを提供し続けていたのです。
トランキーロが意味すること
内藤選手は「トランキーロ」という言葉を好んで使います。スペイン語で「あせるな、落ち着け」を意味する言葉です。その意味の通り、落ち着かないとき、はやる気持ちを抑えられないときに使います。
しかし、「トランキーロ」という言葉の意味は、それだけではありません。「全てを明かさない」という意味も持っているのです。
例えば、内藤選手は、次のような行動をとることがあります。
- 何かを始めるとき、予告はするけれど内容は明らかにしない。
- 重要な試合では、対戦相手を直前まで発表しない。
- ビッグマッチ直前、ファンに謎掛けはするけど答えは教えない。
- インタビューでは、常に疑問点を残す。
内藤選手は、ファンにヒントを与えますが、最後まで親切丁寧に教えることはしません。
すると、プロレスファンは勝手に想像を始めます。
「何が始まるんだろう?誰と戦うんだろう?次は何が起こるんだろう?」と。
これこそが内藤選手がよく使う「ファンを手のひらに乗せた状態」のこと。
ファンは、早く結果を知りたがりますが、簡単に答えを教えません。次第にファンは焦りだすでしょう。「早く答えを教えてくれ」と。
そうなって初めて内藤選手は、ファンをたしなめるよう、この言葉を使います。
「トランキーロ!あっせんなよ」と。
内藤哲也選手が実際に答えを教えるのは、そのずっと後のこと。ファンが答えを求め、想像しつくした後です。想像している間も含めてプロレス。内藤選手は、ファンに想像するという、ぜいたくな時間を与えるのです。
「最後のピース」をファンに委ねているのです。
この方法で、内藤選手は人気選手になりました。
「焦るな」という意味でしかない「トランキーロ」という言葉ですが、答えを知りたがるファンを、制するための言葉でもあるのです。
内藤哲也の無駄の多いプロレス
次に、内藤選手の戦い方を考えます。
制御不能となった内藤選手は、次のような行動を見せることが増えました。
- 試合中に寝転ぶ。
- 相手に唾を吐く。
- 場外から返ってこない。
このような行動は、直接、相手に勝つことには繋がりません。むしろ、タイミングによっては戦況を悪化させることだってあります。
それなのに、内藤哲也選手はこのような行動を繰り返します。
なぜでしょうか?
効率化された世界
現代のように効率化が進められた世界では、一般的に、無駄なことは「悪」として考えられています。
「過ぎた時間は戻ってこない。だから私たちは時間を大切にして生きるべき」
忙しない世の中、1秒たりとも無駄にせず生きることが正しいと考えられています。
でも、こんな生き方って息苦しいだけですよね。1秒たりとも無駄にしない生き方なんて、ゴールのないマラソンを全速力で走るようなもの。長く続くはずがありません。
無駄なんて多くて構わない
そうではありません。私たちはもっと時間を無駄したり、無意味な時間を過ごしたりして良いはずです。
人生なんてゲームのようなもの。
例えば、時間を無駄にしないという生き方は、攻略本のとおりに動き、最短距離でゲームをクリアするのと同じです。楽しいはずがありません。それよりも、何度も道に迷いながら、クリアに必要なアイテムさえも取りこぼし、何度も負けてボコボコにされる。
それでも、壮大なストーリーに夢中になり、エンディングまでドキドキしながら遊んだほうが、絶対に楽しいに決まっています。私たちは、無駄なことが大好きなのです。
プロレスの試合だって同じです。
ゴングが鳴った瞬間に相手を倒し、マウントになってひたすら殴り続ける。
そんな試合なんて楽しいでしょうか?プロレスってそんなもんじゃありませんよね。それが見たかったら総合格闘技でも見ていれば良いのです。
無駄にアピールして、無駄な技を出して、無駄に見栄えのする技を出してで観客の心をつかむ。そんなプロレスを私たちは見たいのです。
トランキーロ、あっせんなよ!
内藤選手のプロレスは、無駄な行動が多いです。勝つことだけを考えると非効率。でも、だからこそファンは内藤選手を支持します。
内藤選手だって、昔は結果だけを求めて焦っていた時期がありました。しかし、それではIWGPヘビー級のベルト穫ることはできませんでした。
あるとき、結果だけを追うのを止めて、自分のペースで戦い始めました。すると、ベルトのほうから近づいてくるようになったのです。
一分一秒でさえも無駄にするな!
このような生き方が賞賛される世の中ですが、あえて無駄に時間を消費してみると、意外と上手くいくものです。
人生なんて無駄に生きたって構わない。
トランキーロ。
制御不能な戦い方は、まるで私たちにそのことを伝えているようで心地よい。こうして内藤選手は、ファンの支持を得るようになりました。
嫉妬されない理由
この結果、内藤哲也選手は圧倒的な人気を得るようになりました。
しかし、あまり人気があると嫉妬されるようになるのがプロの世界。内藤哲也選手は、どのように、嫉妬という感情をクリアしているのでしょうか?
嫉妬のしくみ
人間は、なぜ嫉妬をするのでしょう?
それは、”自分”と”結果を出した人間”に、違いを感じていないからです。
自分だって同じくらいの結果を出しているはずなのに、ほかの人ばかり注目されている。不公平だ、理不尽だ……。ここから、妬み、嫉み、僻み、嫉妬が発生するのです。
これを防ぐには、文句を言えないくらい、圧倒的な結果を出すしかありません。
もし、あなたの会社が1000万円の売上を上げているのならば、700万円以上をあなたが稼ぎ出す。もし、あなたの会社が1億円の売上を上げているのならば、7000万円以上をあなたが稼ぎ出す。
これくらい圧倒的な結果を出すと、あなたがどれだけ目立とうと嫉妬されることはありません。
なぜなら、既にあなたと他の人間では、立っている次元が違うから。人間は、違う次元に立っている人間に嫉妬できるほど器用にできてません。もっと身近の、目立っている人間を見つけて嫉妬する生き物です。
圧倒的な結果を出した内藤哲也
「出る杭は打たれる」という諺(ことわざ)がありますが、中途半端に出ているから打たれます。手が届かないくらい、出過ぎてしまえば打たれることはありません。
内藤哲也選手は、圧倒的な結果を出しました。
他の選手からは「あいつには敵わない」 と思われるようになり、ファンからは「内藤哲也なら」と認められるようになりました。
一般に、圧倒的な結果を出した人間は、驕り高ぶり、再び転落していく人が多いもの。調子に乗って、作らなくても良い敵を作り、足を引っ張られるからです。
その点、内藤選手は、圧倒的な結果を出しても発言は常にファン目線。ファンが次に何を望んでいるのか、何をすれば喜ぶのかを第一に考えています。
だからファンは内藤選手は嫉妬されないのです。
新日本プロレスの主役は?
内藤選手は、一時期、次のような言葉を使っていた時期がありました。
「新日本プロレスの主役は俺」です。
一見、プロレスラーの発言として、問題ないように聞こえます。しかし、本当にそうなのでしょうか?
実はこれは大きな間違いで、エンターテインメントにおいて本当の主役は、リング上の演者ではありません。
本当の主役はお客さんです。
極端な例で言うと、良いレスラーがたくさん出てきて、良い試合を多く提供したとしても、お客さんが満足しなければ、その日の興行は失敗です。
逆に、少しくらいに雑な試合だとしても、要望に応た試合を提供し、お客さんが満足すると、興行は成功です。だから、出場するプロレスラーは全力でお客さんを満足させようとするのです。
つまり、
「主役の内藤哲也を、お客さんが見に来る」
ではなく、
「内藤哲也が、主役のお客さんを楽しませる」
と考えるのが正解なのです。
だから、いくら「主役は俺」と言ったところで、観客の心には届いていなかったのです。
2017年のG1クライマックスで優勝したとき、内藤哲也選手はあえて「主役は俺」だと言いました。このとき、お客案は内藤選手を支持しました。これは、内藤選手が本当の意味での「主役」を理解できるようになっていたからです。
東京スポーツのインタビューに定期的に答えたり、週刊プロレスで連載を始めたり……。
プロレス界では伝統的に、一時代を築いたレスラーはその後転落が待っているものですが、内藤哲也選手に、心配はないようです。