新日本プロレス「内藤哲也選手」の人気を支えるのは、常に観客を意識したそのコメントです。
なぜ、これほどまでに、ファンの心を掴めるのでしょうか?
今回は、内藤哲也選手が、2017年の試合後に発したコメントを全て分析し、ファンの心を掴んだ秘訣を紹介します。
内藤哲也のコメントを分析する
最初に、内藤哲也選手が2017年に発したコメントを、公式ウェブサイトから抽出し、単語や文節ごとに出現頻度を調べます。
これはもう新日本プロレスのサイトを開いてコツコツコツコツと……。
抽出したコメントは、ツールを使って解析していきます。
使ったツールは立命館大学の樋口耕一准教授が作成したフリーソフトウェアの「KH Coder」です。
抽出結果を、下記2パターンに分類しました。
- 内藤哲也選手が試合後に出した「マイク・コメント」
- 第1試合に出場した選手が試合後に出した「マイク・コメント」
第1試合に出場した選手のコメントも調べたのは、内藤哲也選手と比較するため。これにより、内藤哲也選手のコメントを比較論で分析できるのです。
新日本プロレスでは、2018年に157回の興行を行いました。
それぞれ発したコメントの総文字数は、内藤哲也選手で53,616文字、第1試合に出場した選手で48,336文字。両方合わせると101952文字です。
正直、かなりの時間を要しましたが、内藤哲也選手のコメントに隠された秘密が明らかになりました。
まぁ、あまり勿体ぶるのもなんですから、サクッと見ていきましょう。
新日本プロレスの選手が使った言葉
分析ツールで、内藤哲也選手と、第一試合の出場した選手が、コメントでよく使う言葉を取り出し、頻出語ごとに分類。ランキング形式で並べます。
すると、下記のような結果となりました。
よく使う言葉だけに、聞き慣れた言葉が並んでいるのではないでしょうか。
【A】(内藤選手のコメント)の1位と2位を伏せ字としたのは、この2つの言葉が内藤哲也選手の人気を裏付ける、象徴的な言葉だったからです。
2016年・2017年のプロレス大賞獲得は、この2つの言葉を最重要視した結果だといえるでしょう。
逆に、この2つの言葉は【B】(第一試合に出た選手のコメント)からはほとんど発せられることはありませんでした。
ここかなり重要です。
第一試合の選手が使った言葉
まずは【B】から見ていきます。
【B】の3位と4位も伏せ字にしていますが、これはサクっと答えを言っちゃいましょう。
結果は、「勝つ」「負ける」です。実力が均衡するヤングライオン同士が戦うため、勝った、負けたで語ることが多いです。
例を挙げると、次のとおりです。
海野「クソッ! またチャンスを殺してしまった。明日の福岡、ヤングライオン同士の闘いだ。絶対、自分が勝ってやる。その次、大阪、(対戦相手は)鈴木軍、覚えとけよ。このチャンス、絶対、生かしてやる!」
成田:クッソ! 今日は引き分けだったけどなあ。最初に初勝利を上げるのは俺だ。次、『LION’S GATE』で勝つのは俺だ!
このように、第一試合のコメントでは、勝敗論で語られることが多いです。
つまりこれは、第1試合では何よりも勝敗が重要と言えるでしょう。
そりゃそうですよね。第一試合で戦うのはほぼ同期です。同期相手に、簡単に負けているようじゃ、厳しいプロの世界で生き抜くことなんてできません。
なので、第1試合を戦うヤングライオンは、このようなコメントを残します。
5位、6位に出てくる「次」「絶対」という言葉も合わせて使われていることが多いです。
内藤哲也がよく使った言葉
【A】を見ていましょう。2017年度で内藤哲也が発したコメントで最も多かった言葉1位と2位の発表です。
1位と2位は、「お客様」と「皆様」でした。
内藤哲也がコメントを出すときは、必ずといっていいほど「お客様」と「皆様」 という言葉が出てきます。
例を見てみましょう。
内藤:11月の大阪大会、彼(棚橋)は『骨折しました』なんてウソをついて、大阪のお客様を裏切ったんでしょ。すっぽかしたんでしょ。その謝罪はないのか? 俺に謝罪なんかしなくていいよ別に。でもさ、大阪のお客様に謝罪すべきだろ? 俺に挑戦表明してくる前に、ま・ず・は、大阪のお客様への謝罪が一番優先すべきことじゃないかと思うけどね。
このように、内藤哲也選手のコメントには、「皆様」と「お客様」という言葉が、必ずといっていいほど使われています。
ひとつのコメントで、複数回使われることも珍しくありません。
また、【A】で12位にランクインした「会場」も、合わせて使うことも多いです。「この会場にお集まりのお客様」というようにですね。
ただ、好んで使うのは「皆様」と「お客様」です。
ランキングには出てきませんが、「皆様」と「お客様」は、具体的な地名と合わせて使うこともあります。
例を見てみましょう。
内藤:我々LOS INGOBERNABLES de JAPONを応援して下さる名古屋のお客様、今年最後の名古屋大会のフィナーレ、そして! ここ愛知県体育館では初めての大合唱、皆様、思う存分、叫んで下さい。
このように、具体的な地名をあげ、皆様・お客様と繋げます。これ、CHAOSの外道選手も同じなんですよね。
実は、地名を合わせてに呼びかけるというのは、聞き手の関心を惹くのに有効な手段です。
ビジネスでも同じで、単にお客様と呼びかけるよりも、個人を特定する何かを組み合わせることで、お客様は、自分に向かって問いかけられていると錯覚するのです。
ファンの心を掴めていないなーって思うプロレスラーの方は試してみてください。
営業の魔術―お客様の心を動かすプロになれ! (Best of business)
内藤哲也と第一試合を比較する
まとめましょう。
内藤哲也選手が、2017年によく使った言葉は「皆様」「お客様」「会場」の3つでした。
この3つの言葉を抽出し、使用回数を【A】と【B】で比較してみましょう。
使用回数の差は明らかです。
これは少し乱暴に言うと、【B】では「勝つ」「負ける」というように、戦った相手にばかり意識が向いて、観客に向いていないということです。
だから、コメントが大きく取り上げられることもないですし、観客の心を掴むこともできないのです。
第一試合には第一試合の、メインにはメインの役割があるといえばそれまでですが、無関係ではありません。
観客の心を掴みたいのなら、意識して使うことが大切です。
内藤哲也が変えたこと
2017年、内藤哲也選手は、ベルトをたった2ヶ月間しか保有していないにもかかわらず、多くのファンの支持を集めました。
その理由は、内藤哲也選手が使う「言葉」です。
内藤哲也選手がコメントブースで出した言葉、マイクアピールで出した言葉を観客は拾い上げ、深く共感するのです。
「お客様」「皆様」と問いかけることで、ファンは「自分に向かって話しかけられている」と思い、内藤哲也選手のコメントに聞き入ります。
だから内藤哲也の言葉に酔いしれるし、支持もします。
内藤哲也がファンの共感を生むのは、内藤哲也が徹底してファンに意識を向けているからと言って良いでしょう。
では、内藤哲也選手がこういった言葉を、ずっと使ってきたかというと、そうではありません。
数年前の内藤哲也選手が好んで使っていた言葉を見てみますしょう。
この言葉が向いているのは、【俺(内藤選手自身)】のみです。
ファンの心を掴む要素がまったくありませんよね。
内藤哲也選手は、制御不能となり、ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンを結成したから人気が出たと言われますが、それは外的な要因でしかありません。
本当に人気が出た理由は、内藤哲也選手が意識を変えたから。
これまで自分にしか向いていなかった意識を、観客に向けたからこそ、内藤哲也選手は、多くのファン支持をされ、共感を生むことができたのです。